翻訳者は裏切り者?

クリスマス、大晦日、お正月休みが来れば
幼稚園や学校も当然ながら冬休みに入るので
子供と一緒にDVDを観る機会も多くなるのですが
こちらで買ったドイツ語吹き替え版の
「崖の上のポニョ」のDVDを観ていて
気がついたことがひとつ。

DVDは日本語版も観られるので、
ドイツ語版で観たり、日本語版で観たりと
その日の気分(?)によって選べるのですが、
日本語とドイツ語訳の台詞それぞれに
国や文化が現れているような気がして、聞き比べると
これがまた面白いのです。

たとえば、奇妙な恰好をしたフジモトを
初めて見たリサが、車内で呟くシーン。

日本語では確か、
リサ「なによ、あの不気味な男。
なーんて言ったらダメよ、宗介!
人は見かけじゃないんだからね」
宗介「僕、言わないよ!」

と、大体こんな感じだったと思うのですが、
DVDのドイツ語版では、

リサ「なによ、あの不気味な男。
なんて他人について言うべきじゃないってことは分かってるけど。
宗介、今見たものはさっさと忘れなさい」
宗介「もう忘れたよ!」

といった内容になっていて、この台詞を聞くと、
リサの能天気さが薄まった代わりに、
少し理屈っぽくて歯に衣を着せない性格の人といった
印象を受けるのです。

が、これがドイツ語だと妙にしっくり来るというか、
ドイツ人のお母さんだったらフジモトを見た後、
きっとこんな風に呟くだろうなあというか、
むしろそのまま訳すよりも
はるかに自然な仕上がりになっているように感じられるのです。
(もちろん、「ポニョ」のDVDを訳している方ですから、
とても優秀な翻訳者様なのだと思います)

同じ数秒間で、日本語よりはるかに
多くの台詞を口にしているリサを見ていると、
確かにドイツ人ってこんな風に喋るよなあ、
しかも他人に弱点を突かれないよう、
全部先に説明しておこうとするんだよなあ、
と、一種の「あるある」のように
個人的に頷ける点が妙に沢山あるのです。

さらに、ドイツの人には
いわゆる「不思議ちゃん」ぽい性格
(リサにも多少当てはまりますね)は、
あまり理解されない気がするので、
必然的に理屈っぽい話し方になってしまうのかもしれません。

映画やアニメの字幕翻訳などを見ていると、
一対一で訳すことが必ずしも
相手の国の人に上手く伝わっているとは
限らないんだな、と思います。

翻訳者は裏切り者と言うけれど、
なるべく読者を裏切らない訳者になれるよう
今年も努力していきたいと思います。